数万人に一人の病気 褐色細胞腫になったときの体験談

~通常なら数㎝の腫瘍は、なんと大人の頭サイズだった!~

【手術前日】もしもに備えて遺書を作成 そして眠れない夜

前回までのあらすじ
褐色細胞腫の摘出手術が迫る。手術2日前に入院して残された検査をこなし、今日は手術前日である。

麻酔科やICUから手術の説明を受けて同意書に記入

明日の手術に備えて、午前中は麻酔ICUに関する説明を受けました。手術の方法や輸血については主治医から説明されましたが、麻酔の説明は、それらとは別個に独立しています。

まずは病室に麻酔科の医師がやってきました。書類を渡され、それに沿った説明が行われます。

  • どのような方法で麻酔を行うか
  • どのようなリスクがあるか
  • 何かあった時はどんな処置をするか

私の手術でどのような麻酔を行なったかは、手術当日の記事をお読みください。

説明が終わり、同意書にサインをします。

麻酔科の説明が終わってしばらく経つと、今度はICUの説明です。看護師が私のベッドを訪れました。手術後はICU(集中治療室)に入りますが、いろいろ注意点があります。たとえば、手術後は身体にいろいろな管や機器が取り付けられていますから、下手に動くと大変なことになります。そのため、必要な場合は身体を拘束をすることもあると言われました。よっぽどのことがなければ、そこまではしないそうですが。

その他、家族のお見舞いに関することや、どれくらいで出られるか(ICUから一般病棟に移れるか)の見込みも説明されました。

肺の検査 そして手術後にお腹に巻く腹帯を購入

説明が終わったら、あとは特に何もなく昼食タイム。ちょっと量が足りないな…。15時くらいに小腹がすいたので、塩分摂取を兼ねて、院内の喫茶店へラーメンを食べに。汁まで全部飲み干します。

部屋に戻ってしばらくすると、ちょっと慌てた感じで看護師がやってきました。

「すみません(私)さん。伝わってなかったかもしれないんですけど、『ふくたい』ってお持ちですか?」

ふくたい? なにそれ?

「手術後はお腹の傷をしっかり押さえるために、こういうのをお腹に巻くんですが…」

ああ、腹帯ですね。持っていません。

「患者さんの方で用意していただかないといけなくて…。コンビニの横に売店がありますので、そこで購入してください。買ってきたらこちらで預かります」

この後、肺の検査をすることになっており、出掛ける予定です。その帰りに買ってくることにしました。

夕方になり、肺の検査に呼ばれます。別に肺疾患などはありませんが、手術中~術後の呼吸管理の参考にするのかもしれません。検査は二種類あって、いわゆる肺活量と、瞬間的にどれだけ息を吐き出せるかの数値を計りました。太いホースみたいな管を口にくわえて、指示通りに息を吸ったり吐いたりします。

「おおっ? 肺活量すごいですね」

肺活量には、年齢や体格から導き出される標準値があるらしいです。私はそれを500mlも上回っていました。特にスポーツなどはしていませんが、もしかしてこれは私に隠された才能なのか?(笑)

瞬間的にどれだけの息を吐き出せるかの検査は、私のやり方が下手だったようで、何回か計り直し。結局うまい波形は取れなかったようで、最後は「まあこれでいっか」みたいな雰囲気で打ち切られました(笑)

検査が終わり、外来病棟の中を歩いて、腹帯を買いに行きます。外来の待合は、昼間の混雑具合が嘘のように静まり返っています。このガランとした外来病棟の感じ、入院患者でないとなかなか目にできないでしょう。

コンビニ横の売店は初めて入りましたが、医療品関係の品を揃えてありました。腹帯がどこにあるかわからなかったので、店員さんに聞きました。サイズが三種類あり、試着させてもらって真ん中のサイズを購入。けっこう値が張る…。千数百円はしたかと。

買ってきた腹帯は、巡回に来た看護師に預けました。手術後に病院側が私に装着してくれるので、自分で持っておくものではないです。

もしもの時に備えて遺書を作成

説明やら検査やらがちょこちょこ入った一日ですが、空いている時間は、ベッドの上でパソコンに向かっていました。病室ではパソコン使用がOKなので、入院時に持参しました。

こちらの記事で書いたように、私の手術、医師からは「危険」と言われています。万が一に備えて、遺書を書いておきました。家族、友人、恩師、同僚宛てにです。妻と娘には長文を書きましたが、あとの人は大袈裟な内容にせず、感謝の言葉や、今後頼みたいことなどを一言二言述べる感じです。妻には、「万一の時は、パソコンのデスクトップにファイルがあるから見て」と言ってありました。

私の立場になったら、「縁起でもないから、そんなもの書きたくない」と思う人もいるでしょう。しかし、何かあった時にメッセージの一つも残してなかったとなれば後悔するので、書こうと決めました。もちろん、自分が死んだという前提で文章を書くのは、いい気分ではありませんが…

同部屋の人はみんな明日が手術 なかなか眠れない

明日の手術は8時45分から。手術の一定時間前から飲食は控えなければいけません。食べ物は0時、水分摂取は明日の6時から禁止。それが記された紙を、看護師から渡されました。

夕食。手術前最後の食事です。「最後の晩餐」なんて言葉が頭をよぎりました。ゆっくり噛みしめるように食べ…ません。いつも通りの速度で食べ、目の前のご飯は、あっさり消えてなくなりました。空になった食器を見ても、いつもは何も思いませんが、今日はもの悲しさを感じます。

最後に何かお菓子の一つでも食べておきたい…。気分転換がてらコンビニへ買い物に行き、ポテトチップスとジュースを購入。夕食と違い、こちらは一口一口丁寧に味わいます。正真正銘、手術前最後の食べ物です。

21時過ぎに、主治医のS先生がきました。「すみません、やることを一つ忘れてまして」と黒ペンで私のお腹に印をつけます。アナログな方法ではありますが、ここが手術部位だよと明示しておき、勘違いを防ぐための措置です。

「聞きそびれてたんですけど、執刀って誰がされるんですか? S先生が?」
「私じゃないです。科長のKが執刀します」

内分泌外科の科長というポジションがどれくらいすごいのか、部外者の私にはわかりませんが、「長」とつく医師が直々に出陣してくるからには、やはり大変な手術なんだなと思いました。

「S先生も入るんですよね?」
「そうですね、助手で入ります」

というかS先生、この時間まで仕事して、明日朝一から手術? 今から帰っても寝る時間が全然ないのでは。病院に泊まり込むのかなあ、と想像しました。「医者は体力おばけ」なんて言われますが、こういうのを目にすると納得です。

22時、消灯。

ダメだ、眠れない。しっかり寝て体力を温存しなきゃいけないのに。やっぱり緊張してるんだなと思いました。

眠れないのは私一人だけではないようです。同じ大部屋の他のベッドからも、寝返りを打っている気配や、「フゥ~」とため息が聞こえます。ついに一人が、ナースコールで看護師を呼びました。

「すみません、眠れなくて。眠剤とかあります?」

実は、私を含めたこの大部屋の4人は、全員が明日に手術。同部屋だと、出入りする医師や看護師の話が丸聞こえ。みんな明日手術なんかい! とわかるまで、それほど時間はかかりませんでした。

お互いベッド周りのカーテンを閉めているので、ロクに顔も見えませんが、奇妙な連帯感みたいなものを感じました。私だけかもしれませんけど(笑)

そして、やっぱり私も眠れない。もうすぐ0時です。もういいや、一晩くらい寝なくても死にはしない、と開き直り、ベッドの上でジッとしていました。

→次の話 手術当日