数万人に一人の病気 褐色細胞腫になったときの体験談

~通常なら数㎝の腫瘍は、なんと大人の頭サイズだった!~

手術の説明を受ける(2) 危険な手術だと告げられる

前回のあらすじ
手術まで2週間と迫り、説明を受けているところ。私の手術は、開腹して右副腎を摘出するというもの。

うかつに触ってはいけない褐色細胞腫

こちらの記事で説明したように、褐色細胞腫の手術は、乱暴に言えば「腫瘍を切って取り出すだけ」です。どこかを再建とかリンパ節をいじるとか、そういう作業はありません。手術の類型としてはシンプルとのことです。

ただし、シンプル = 簡単という意味ではありません。実際、先生からは「かなり危険な手術ではあります」と言われました。

先生の話をまとめると、危険要素は大きく二つのようです。

まず、褐色細胞腫そのものが厄介です。褐色細胞腫は刺激を加えると、血圧を上昇させるカテコラミンというホルモンを多量に放出します。手術中に血圧が急上昇するのが危険なのは、言うまでもないですね。なるべく褐色細胞腫に触らないようにしなければいけません。

と言っても、「切って取り出す」以上、最初から最後まで腫瘍にノータッチというのは無理な話。絶対に触る場面は出てきます。つまり、ある程度の危険は承知の上で踏み込まなければいけないのです。したがって、褐色細胞腫の手術では、術中の身体の状態をいかにコントロールするか(血圧や脈の管理)が急所になってきます。

そもそも、A病院ではそれができないと言われて、B大学病院に転院してきたのがこれまでの経緯でした。

先生によると、手術が始まったら、まずは褐色細胞腫から外に繋がる血管を遮断するそうです。カテコラミンが放出されても、ブロックして心臓まで行かせないためです。

18㎝という腫瘍の大きさそのものがリスク

もう一つ、今回の手術で危険なのは、腫瘍が巨大なこと。私の褐色細胞腫は18㎝もありました。これだけのものが腹の中にあると、いろいろ不都合がありえます

たとえば、手術中にどこからか出血したとします。出血した地点を探して止血しなければいけませんが、18㎝の腫瘍が邪魔になって視野がふさがれ、出血ポイントを探すのに手間取るかもしれません。出血部分を見つけても、腫瘍が大きくて邪魔なので、止血処置に手間取ることもありえます。出血が長引けば、致命的な事態を招く可能性も。

さらに先ほども書いたように、褐色細胞腫はうかつに触ってはいけません。何か起きた時に、なるべく刺激しないように対処するのは骨が折れるでしょう。

腫瘍の大きさそのものがリスクになるケースは、他にもあります。何かのはずみで重たい腫瘍が自重で動いてしまい、血管が一緒に持っていかれてベリッと剥がれて出血するとか。

他の臓器との兼ね合いで危険もあります。私の褐色細胞腫はデカすぎて、上部に位置する肝臓に当たってしまっており、取り出す際には肝臓に触ることになりそうです。肝臓は血管が非常に多く通っている臓器なので、やはり何かあった時の出血が怖いです。また、臓器ではないですが、大動脈も近くにあります。

腫瘍が小さければ、このあたりの危険はさほどでもなかったはずですが…。18㎝という大きさが、今回の事態を厄介にしています。

手術以外の選択肢はないのか?

  • うかつに触れない褐色細胞腫
  • 18㎝という腫瘍の大きさ

というわけで、どうやってもリスクの高い手術になります。

ただ、病院側は私に対して「手術を受けなさい」と命令しているわけではありません。あくまで「治療法として考えられるのはコレです」と選択肢を提示しているだけであり、決定権は病院側ではなく私にあります。

ですから、私が「手術は危険なので嫌だ」と思えば、他の方法を選ぶことも可能です。極端な話、なにも治療せずに放置するのも私の自由。そのため、手術以外の選択肢を選んだ場合の説明もされました。

まず、放置した場合。当然ながら褐色細胞腫が身体に残ったままなので、何かの拍子にカテコラミンが大量に放出され、脳や心臓に悪影響を及ぼす可能性があります。私が最初に倒れた時のようなことが、また起きるかもしれないということです。

また、後年に「やっぱり手術したい」と思っても、腫瘍の状態によっては手術ができない可能性もあります。ようは手遅れになるかもしれないと。

手術以外の治療方法はどうでしょうか? 放射線治療や薬物治療は、あまり効果が期待できないそうです。技術的に放射線や薬物での治療は難しいのか。それとも褐色細胞腫という病気自体が稀なので、たとえば薬を開発しても製薬会社にとって割が合わないため、薬の開発自体が行われていないのか。そのへんはわかりませんが。

とにかく、根本的な治療をするなら手術一択です。私としても「危険は承知で手術を受ける」と最初から腹は決めていたので、放置や他の治療法の説明は、蛇足といえば蛇足ですかね。

特に質問はしなかった

以上が手術に関する説明です。非常に危ない印象を受けたかもしれません。

ただ、昔に比べると褐色細胞腫の手術における安全面は大幅に向上したらしいので、実際のところ、死ぬような事態はそうそう起きない…はずです。病院側としては、起きる可能性のある事態は説明しておかなければいけないでしょうから、どうしても怖い印象になってしまいますが。

手術そのもの以外に、輸血に関する説明も受けました。ですので、同意書は「手術そのもの」と「輸血に関するもの」の2枚です。同意書にはその場でサインを求められるわけではなく、入院時に提出すればいいとのこと。

最後に「質問はありますか?」と先生から言われましたが、特に何も聞きませんでした。「成功(または失敗)の確率は何%ですか?」と質問したい気持ちも少しありましたが、意味がないと思ってやめました。

危険は承知で受けると決めていたので、数字を聞いたところで何の役にも立たないという理由が一つ。

それから、成功(失敗)の確率なんて聞かれても、先生は答えられないはずです。褐色細胞腫の手術件数自体が少なく、さらに私の腫瘍は超巨大でモデルケースがほとんどない。それに、実際にお腹を開いたら予想していた形と違った、なんてこともありえます。こうした不確定要素が多い状況下で、成功(失敗)の確率を教えてくれなんてのは無理な話…というのが二つ目の理由です。

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