数万人に一人の病気 褐色細胞腫になったときの体験談

~通常なら数㎝の腫瘍は、なんと大人の頭サイズだった!~

【手術翌日】マジすか!? ICUの中でまさかの…

前回のあらすじ
手術が無事終わってICUで迎えた朝。ここまで術後のトラブル等もなく、酸素マスクや一部カテーテルも外されて順調。

お腹の傷はさほど痛くなかった

朝8時、鼻から胃に入れられていたカテーテルを抜いてしばらくすると、執刀医のK先生と、主治医のS先生がやってきました。朝の巡回というやつですかね。

まだ喉が潰れた感じはあるものの、声はかなりしっかり出せるようになっており、執刀医のK先生からの質問にもハッキリ答えることができました。

「傷の痛みは?」
「少し痛いだけです」
「どのくらい?」
「そうですねぇ…。筋トレで100回腹筋やった次の日の筋肉痛みたいな」

別に強がりではなくて、お腹の痛みはさほど感じませんでした。もちろん、痛み止めが効いているからですが。

「痛みのレベルを1から10までで言ったら、どのあたり?」
「せいぜい1、2ですね」

私の褐色細胞腫は超巨大だったので、取り出すためにド派手にお腹を切ったのですが、全然我慢できるレベル。常時顔を顰めるくらいは痛いと思っていたので、嬉しい誤算(?)です。

「つーか…こっち(下半身)の尿のカテーテル差し込まれてる方が痛いくらいですね」
「あぁ…なるほど」

手術直後なのでトイレに行くことはできず、導尿のカテーテルが入っています。男の急所に管を差されていますが、当然ながら、そっちは痛み止めや麻酔という話にはなりません。うかつに下半身を動かすと「いてっ」となる感じです。

手術が終わって24時間経たないうちにまさかの…

K先生の質問は続きます。

「気持ち悪いとか、頭がフラフラするとかは?」
「腹が減りすぎて気持ち悪いです」
「(笑)」

どうせ手術後しばらくは点滴だろうと思って、「食事はいつから可能ですか?」と事前に質問していませんでした。いつからメシが食えるんだろうなぁ。そう思っていると、先生から思いがけない言葉が。

「じゃあ昼ご飯から出そうか」

マジすか!? 腹をめっちゃ掻っ捌く大手術終わって24時間経たずにメシ? 実食? 点滴で対処するもんじゃないの?

「食べてもいいんですか?」
「あー大丈夫大丈夫。消化器系はまったく触ってないから問題ない。食べられそうなら食べた方がいいよ」

そういうものか。確かに、100回の点滴よりも1回のご飯の方が回復の源になってくれるだろうから、ちょっと無理しても食べた方がいいのでしょう。

K先生からの質問が終わり、主治医のS先生から説明がありました。

「取り出した褐色細胞腫なんですけど、2㎏ありました。大きさもダチョウの卵くらいで」

ダチョウの卵は見たことないのでイメージできませんが、2㎏はすごい。2リットルのペットボトルを腹に詰め込んで動いていたようなもんですか。

「写真とか撮ってあるんですよね?」
「撮ってますよ。そのうち外来でお見せしますね」

患者の本音としては、写真じゃなくて実物を見たいのですが、取り出した褐色細胞腫は分析のため顕微鏡検査などに回されます。患者に見せるためだけに、持ち出すわけにはいかないのでしょう。

「(私)さんは麻酔で寝てたから、もちろん何も感じてないわけですけど、手術中にやっぱり血圧が急上昇した場面もあったので、身体には相当負担がかかってます。ゆっくり休んでくださいね」

S先生はそう言って、K先生と去っていきました。

血圧を維持するカテコラミンの投与をカット

手術直後なので、痛み止めをはじめとして、私にはいろいろな薬が投与されています。10時頃になると、それまで投与されていたカテコラミンがカットされました。

こちらの記事でも書きましたが、褐色細胞腫は血圧を上昇させるカテコラミンを大量放出しているので、手術で切除すると一時的に血圧がドカーンと下がります。あまりにも血圧が下がると危険なので、手術後しばらくは血圧を維持するためにカテコラミンを投与するのです。カテコラミンを放出する褐色細胞腫を切っておいて、術後にカテコラミンを投与するとは、なんだか変な話ですが。

「いまカテコラミンをカットしました。これでもうしばらく様子を見て、問題がなければ午後には一般病棟に戻れますので」

早朝は血圧の数値が75/45くらいしかなかったのですが、この頃になると、85/55くらいまで上がってきていました。カテコラミンをカットしても特に数値は下がらず、その後も血圧は順調に上がっていきました。

これだけ早く「褐色細胞腫がない状態」に対応するとは、人間の身体って不思議だなぁと感じました。

身体が完全に起こせないので食事は大変だった

12時、待ちに待った昼食がやってきました。しかも普通食。メインは、魚の切り身のマヨネーズ焼き。副菜、アスパラの胡麻和え。

ところで一つ疑問が。ICUって、言ってみればヤバい状態の人が入るところ。そんな場所でメシを食う患者なんているのか? 気になったので、配膳に来た看護師に聞いてみました。

ICUで食事をする人っているんですか?」

まさかいないだろうと思っていたのですが、

あぁ~、けっこういらっしゃいますよ。心臓のリハビリ関係でICUに入っている患者さんなんかは、普通に食事されますね」

そうなのか…。ICU = 生きるか死ぬかでメシどころじゃない人ばかり、と思っていたので、かなり意外でした。

ベッドを傾けてもらいましたが、さすがに「普通に座って上半身を90°起こした状態」まではいきません。手術直後ですから身体もあまり動かせず、背中はベッドにくっついたままの状態。机に置かれたメシがちょっと遠くて食べにくい…。病院食はいつもは10~15分くらいで完食するのですが、この時は40分以上かかりました。

また生きて食事を口にすることができる喜びを噛みしめながら、私は黙々と食べ続けました。食事ができるって、なんて素晴らしいのだろう。退院したら食べたいもの。寿司、ピザ、焼き鳥、唐揚げ。もちろん、ビールやハイボールを豪快にあおりながらじゃああああ!

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