数万人に一人の病気 褐色細胞腫になったときの体験談

~通常なら数㎝の腫瘍は、なんと大人の頭サイズだった!~

【手術翌日】ICUで迎えた朝

前回までのあらすじ
褐色細胞腫の切除手術、無事に完了! 私はICUに運ばれた。

人生初のICU 少しイメージと違った

夕方に手術を終え、ICUで夜を迎えました。

手術後ということで、眠くなる薬が導入されていた私ですが、それでもちょくちょく目が覚めました。薄暗い室内で壁の時計を見ると、午前2時、4時、6時…。目の重さがなくなって、しっかり目を開けられるようになると、ICUの様子がわかってきました。

ICUというと、患者の状態を厳格に管理する場所。ですので、完全に外から遮断された“ガチな個室”と思っていました。通路との仕切りもガラスの壁になっていて、入口には扉があるイメージでしたが…違うんですね。通路との間に壁・扉はなく、カーテンで仕切ってあるだけです。思ったより簡素な印象で、ちょっと驚きました。

首を少し左右に動かすと、両隣のICUが見えました。両隣とはさすがに壁で仕切られていますが、ガラスなので、お隣の患者さんの様子が見える格好でした。

まだ寝返りや身体を横にするなどはできず(手術後だから当然ですが)、首も完全には動かせないため、背後は見えません。部屋全体の広さは把握できず。

(予定通り)血圧がものすごく下がった

目の前のモニターには、いろいろな数字が並んでいます。脈拍・血圧・酸素飽和度(サチュレーション)がどれかは理解できましたが、あとの数字は何なのかわかりませんでした。

身体も起こせず首も満足に動かせずなので、他に見るものもなく、私はモニターの数字を眺めていましたが、血圧の数字がすごい。上が75・下が45程度しかない。手術前は120/90くらいはあったのですが。

これは事前にちゃんと説明があり、褐色細胞腫は血圧を上昇させるホルモン(カテコラミン)を大量放出しているので、切除すると血圧がドッと下がるのです。もっとも、それは一時的な現象で、個人差はありますが時間が経てば必ず正常に戻るとのこと。

それにしたって、ここまで血圧が下がるもんなのか。脳とか必要な部分にちゃんと血液送れる? と心配になりました。そういう思考ができている時点で、頭は正常だから問題ないでしょうが。夜明けごろに巡回に来た先生も、モニターを見て「うわっ低いなぁ」と呟いていました。

手術後はすぐには水分摂取ができない

つーか喉渇いた。口の中も乾ききっていて不快です。手術当日の朝6時から水分摂取を禁止しており、いまは翌朝ですから、24時間以上も口の中に水分が入っていません。

「手術が終わったのなら水を飲んでもいいじゃん」と思うかもしれませんが、話は簡単ではなくて…

まず、意識がない人に水を飲ませるのは論外。肺に水が入る可能性もあり、非常に危険です。意識を取り戻していても、手術後で身体が普通の状態ではありませんから、うまく水を飲み込めず、やはりむせて肺に水が入る可能性が。そのため、状態をしっかり見極めてから経口水分摂取になります。これも事前に説明されていました。いくら喉が渇いても、(1) 水を含んだブラシで口内を洗ってもらうか (2) 水で口をゆすぐか、そのどちらかです。

6時55分。もう我慢の限界。看護師さんが様子を見に来たので、潰れた声で頼みました。

「口が渇いちゃって…」
「わかりました」

看護師が、水ブラシで口の中を洗ってくれます。はぁ~マジで爽快。タブレットでも嚙んだような清涼感です。

「ついでに朝の歯磨きもしちゃいますか?」と聞かれたので、そうしました。腕は動くので、自分で磨きます。

「昨日から何も飲み食いしていないのに歯磨き必要なの?」と思うでしょうが、毎日三度の歯磨きは病院のルール。口内環境を清潔に保つためです。

ついでに書いておくと、手術中は口内に呼吸用の挿管器具を突っ込みます。虫歯までいかなくても、グラグラしている歯があると、それだけで手術のマイナス要素です。もっとも、病院側は歯の保護まで考えてくれることはなく、「いかなる場合も呼吸の確保が優先であって、歯の保護を優先することはありえません」と術前の説明書にしっかり記載がありました。そりゃそうだわな。

みなさんも、いつ私のように手術になるかわかりません。歯の健康を保ちましょう。

“抜き抜きイベント”第一弾 胃の中に入っているカテーテル

8時くらいになると、酸素マスクを外してもらえました。意識は明瞭で、声は潰れているが会話もしっかりできる。歯も自分で磨ける。大丈夫という判断なのでしょう。

「それから、鼻の穴から胃の中に管が入っているんですけど、もう抜きますね」

いよいよ“抜き抜きイベント”が来ました。手術後ですので、身体にはいろいろな管・カテーテルが差し込まれた状態ですが、不要になったものから抜いていきます。その第一弾が、鼻から胃の中に入れられているカテーテル(かなり細い)です。

正直怖い。鼻から入っていますから、抜く時に痛かったり、オエエエッってなったりしないだろうかとビビッていました。かと言って、「痛いんすか?」と質問するのもカッコ悪い気がして、何も聞けませんでした。

「ゆっくり深呼吸を繰り返してください」
「スゥー ハー スゥー ハー」
「その調子です。じゃあ次に(息を)吐くときに抜きますね」
「スゥゥゥー ハー」
「…よっと。はい抜けましたよ」

2秒ほどだったと思います。鼻の奥に少し違和感があっただけで、まったく痛くなかったです。かなり細いカテーテルだったからでしょうが、「ズルっと抜かれる感覚」すら全然ありませんでした。痛くなくてホッとしました。

口と鼻が自由になり、ようやく水分摂取の許可が出ます。ゆっくり飲むように指示され、含むようにして口に入れた水を、口内で転がすようにしてから飲み込みます。

生還してから初めて飲んだ水は、これまでに飲んだどんな水よりも美味しく感じた…!

…なんてことは全然ありませんでした(笑) 普通に水だなぁと(笑)

→次の話 【手術翌日】マジすか!? ICUの中でまさかの…