数万人に一人の病気 褐色細胞腫になったときの体験談

~通常なら数㎝の腫瘍は、なんと大人の頭サイズだった!~

B大学病院の外来へ通う そして塩分を摂りまくる

前回のあらすじ
とりあえず体調に問題なく、B大学病院を退院した私。診断書では「仕事に行ってもOK」だったが、会社の産業医から「手術が終わるまでは療養休暇」と指示されてしまった。ここから約2ヶ月にわたるニート生活が始まる…

家族みんなで休みの日々を過ごす

B大学病院を退院して我が家へ戻りました。手術が1ヶ月半後、そこから職場復帰まで半月は要するので、つまり仕事に戻れるのは2ヶ月後。長い長い休みです。

もともと病院からは「仕事に行ってもOK」と言われており、家で大人しく寝ていなければいけない体調ではありません。下手に行動制限みたいなのを意識して、身体を動かさず家に引きこもっていると、逆に健康を損ねそうです。

というわけで、なるべく“普通”の生活を心掛けました。散歩に行ったり、娘の公園遊びに付き添ったり、ショッピングモールに行ったり…。3歳の娘は、まだ幼稚園や保育園には行っていません。妻のパートも夕方から(週3~4回)なので、日中は家族みんなで過ごせました。

朝は8時くらいまで寝ています。仕事の時は6時過ぎに起きていましたから、毎朝8時まで寝られるのは天国です。こんな感じで堕落しきっちゃったら、きちんと職場に復帰できるか心配になりました(笑)

午前中は、だいたい家の中でゴロゴロして過ごします。昼ご飯を食べると、ようやく動き出す感じで、みんなで散歩や買い物に行ったりします。近くのショッピングモールのゲームコーナーで、メダルゲームをやるのが日課になりました。コロナ禍でなければ、子どもの遊べるような施設がもっといろいろあったのですが…

メダルゲームには週4くらいで通いました。お店の従業員からは、「あの家族、お父さんも含めていつも昼間に来るけど仕事してるのかな?」と思われていたに違いない(笑)

メダルゲームに飽きたら、本屋やおもちゃコーナーでぶらぶらしてから家に帰ります。スーパーで買い物していくことも。

そして、夜は普通に晩酌します。退院時に食事制限で言われたのは「ワインとチーズ」だけなので、他の酒は飲んでも問題ないはず。といっても、さすがに毎日お酒を飲むのはよくないので、ノンアルの日も混ぜつつです。

こんな感じで休みの日々を過ごしていました。これだけではさすがに刺激が足りないので、遊園地や動物園にも行きましたね。いちおう療養休暇なのに外出しまくる毎日…(笑)

褐色細胞腫は主治医との付き合いが長年に及ぶ

こちらの記事で書きましたが、手術入院するまでの間、毎週B大学病院の外来に通うことになっていました。手術に向けてカルデナリンという薬を徐々に増やしていくので、体調の確認。

また、手術での輸血に備えて血液型の検査。2週間前になったら、手術の詳しい説明を受けて同意書を提出する。いろいろクリアすべきことがあります。

退院してから1週間後、最初の外来です。私が通されたのは「内分泌外科」でした。

褐色細胞腫は一般的に副腎という臓器に発生するのですが、副腎はホルモン放出をつかさどる臓器であり、内分泌科の領域です。したがって、褐色細胞腫を外科手術で摘出となると、内分泌外科の出番というわけです。

呼ばれて診察室に入ると、初めて会う医師が座っていました。これから私の主治医となるS先生です(注・入院した時の担当医師とは違う)。

褐色細胞腫は、手術をすれば終了という病気ではありません。長い期間(10年とか下手すると20年)を経て、再発や転移が見つかることも。そのため、手術後も定期的に通院・検査が必要で、要するに主治医とは長い付き合いになります

ですので、主治医はもうすぐ引退するような高齢の医師ではなく、わりと若い医師の方が望ましいと聞いたことがあります。実際、S先生は自分(35歳)とそんなに年代は違わないな、という印象でした。

触診でも感知できた私の褐色細胞腫

「ちょっとお腹を触らせてもらっていいですか?」

S先生の外来は、触診から始まりました。右肋骨の下あたりです。もちろん検査データは見ているはずですから、場所の見当もついているわけで。

「あー…うん。確かに何かありますね」

外から触ってわかるレベルなのか! 通常、褐色細胞腫は数㎝で、しかも表面近くには存在していないでしょうから、触って認識できることは稀なはず。私のものは十数㎝とメガトン級なので、触診でわかる例外のようです。

続いて、薬の服用で体調に変化はないかを確認されました。血圧を下げる薬なので、フラつきなどはないかと。この頃はまだ一日3錠程度だったため、特に体調変化は感じませんでした。

「それじゃ、予定通り少しずつ薬を増やしていきましょう」

○日までは一日x錠、△日からは一日y錠という計画が立てられ、それに則った処方箋を渡されました。処方箋は、先生がパソコンを操作すれば、その場ですぐプリントアウトされる仕組みです。

塩を摂るように指示されたので「一日1カップラーメン」

先生の指示は続きます。

「この前の入院中に、水分をしっかり摂るよう言われたと思いますけど」
「そうですね」
「水分だけじゃなくて、塩分も一緒にたくさん摂ってください」

こちらの記事で説明したように、褐色細胞腫の手術前には体内にしっかり水分を確保しておく必要があります。塩を摂れというのは、ようは浸透圧の原理を狙ったもの。水は塩分の濃い方へ向かって移動しますから、体内の塩分濃度を高くすれば、水分を体内にキープできるわけです。

「一日何gくらい塩分を摂ればいいですか?」
「そうですねぇ、具体的に何gと言うのは難しいですが…。WHOのデータだと、日本の成人男性が一日に摂取する塩分量は平均○○gでして…」

患者に質問された時、こういうデータがスッと出てくるところはさすが医師だなぁと感心しました。

「それよりは当然摂ってもらわなければいけませんけど、でも過剰に意識する必要はないですよ。食事に漬物を添えるとか、ラーメンを食べる時は汁まで全部飲むとか、いつもよりちょっと足すイメージで」

この日から私は、「味噌汁代わりに一日1カップラーメン」を実行しました。先生いわく、「ラーメンを食べまくっても大丈夫なんて機会は、もう訪れないかもしれません(笑)」だそうで。いろいろな種類のラーメンを試すことができ、手術前の食生活を楽しませてくれました。

→次の話 手術の説明を受ける(1) 腫瘍がデカすぎて腹腔鏡では対応不可