数万人に一人の病気 褐色細胞腫になったときの体験談

~通常なら数㎝の腫瘍は、なんと大人の頭サイズだった!~

その日ついに「発作」が起きた 救急外来に駆け込んだところ…

「その日」は日曜日でしたが、朝5時くらいに苦しくて目が覚めました。寝ている時に動悸で起きてしまうことは珍しくなかったのですが、この日は何か違う。

普段は動悸で胸が苦しくなっても、数分耐えれば元に戻ります。ところが、この日は全然症状が治まらない。心臓が暴れ馬のように、ずっと脈打ってる。気持ち悪くて動けない。7時になっても8時になっても起き上がれずに、布団の中でひぃひぃ言っていました。

朝からゲロゲロ吐きまくり そして水分補給ができない

妻「どうしたの? 体調ヤバい?」
私「しんどい…悪いけど休ませて…」

朝ごはんも食べられないほどヘバっていましたが、身体を休めて時間が経てば治ると思っていました。私がゆっくり休めるようにということで、妻は娘を連れて外出してくれました。妻と娘よスマン、せっかくの日曜日なのに。

一人になってゆっくり休める環境になったものの、一向に良くならない。良くならないどころか…ウップ、オエェッ! 動悸による気持ち悪さで吐き気が込み上げてきたことは、過去に何度もありましたが、実際に吐いたことは全然なかったです。それがこの日は、もうゲロゲロ祭り。合計で10回は吐いたと思います。吐き気がきた時にすぐ駆け込めるよう、トイレの前で過ごす始末でした。

これだけ吐いたら、しっかり水分補給しないとヤバい。ところが、水やお茶を飲んでもしばらくすると吐いてしまい、ロクに水分が摂れない。ポカリかアクエリアスみたいに、身体に吸収されやすい飲み物じゃないとダメかも。妻に頼んで、買ってきてもらいました。

しかし、ポカリやアクエリアスを少し飲んでも、しばらくすると動悸による気持ち悪さで吐いてしまい、やはり水分を摂取できない。これは焦りました。気持ち悪さだけならともかく、水分を身体に入れられないのは危険だと。

こうして、まったく快方に向かう気配がないまま、午前中~昼~夕方と時間が過ぎていきました。

妻が探してくれた夜間救急外来へ

妻の実家は、我が家(マンション)のすぐそばにあり、本日、妻と娘はそちらで過ごしています。妻がちょいちょい様子を見に来てくれました。しかし、19時を過ぎても一向に症状が良くならず、「さすがにまずいよ」と見かねた妻が、あっちこっちに電話して夜間救急外来を探してくれました。

妻「喉が痛かったり、鼻水出たりする?」
私「喉とか鼻は何も…」

コロナ禍ですから、受け入れ病院側も症状に対しては慎重なのでしょう。

妻「熱はある?」
私「まったくない。これ絶対コロナじゃねぇわ…」

私の“標準体温”は36度台前半ですが、熱を計ったところ、35度台まで下がっていました。新型コロナは風邪系統の症状が出るのが一般的ですが、この時の私の症状はまったく別。動悸や吐き気、そしておそらく脱水症状からくる頭痛や身体の重さ。どう見ても風邪系統じゃない。

妻「A病院が受けてくれるって。行こう」

A病院は、このあたりでは相当大きな病院です。後で調べた情報だと、一般病床数は約400。診療科が20以上。それ以外にも予防接種センターや救急部を備えていて、この地域の中核的な存在です。

妻「あと、明日は仕事に行けないかもね。職場に連絡しといた方がいいんじゃない? 私が電話しよっか?」

もはや自分で喋るのもしんどくなっていたので、素直に妻に頼みました。24時間動いている職場なので、どの曜日・どの時間でも電話すれば誰かが出ます。

心電図で異常が発見された?

さて、娘はそのまま妻の実家に預かっておいてもらいます。妻は、車をマンション入口に回す。その間、私はなんとか着替えて、財布や保険証など最低限の持ち物だけを用意。それだけの準備に死に物狂い。

車をマンション前につけた妻が、私を迎えに来ました。しかし、頭がグワングワンして歩けない。まるで重力が10倍になったかのように身体が重く、地面に引き寄せられるかのように崩れ落ちてしまう。助けてもらいながら車まで歩き、倒れ込むように乗りました。

車で10分ほどの病院だったのは幸い。これが30分かかる病院だったら、途中でどうなっていたか…

病院に着いても、身体が動かなくて車から降りられない。お願いして車椅子で連れて行ってもらいました。救急外来の処置室に運び込まれます。自分ではたぶん脱水症状だと思っていたので、「吐きまくって水分をロクに摂れていないこと」だけは伝えました。

その後、いろいろな処置や検査をしてもらいましたが、よく覚えていません。身体が重い、呼吸が苦しい、頭がフラフラする。もういっぱいいっぱいで…。「いま100万円を出せば身体が通常の状態に戻ります」と言われたら、俺は100万円差し出すだろうな、なんてバカなことが頭をよぎったりしていました。

しかし、点滴を入れてもらってしばらく(1時間くらい?)経つと、身体が楽になっていくのが明確にわかりました。頭のグワングワンや身体の重さが消えていきます。脱水症状だったところに、失っていた水分が補充されて正常に戻ってきたのかも。

あーヤバいヤバい、また動悸がきた。心臓がバクバクする。しばらく耐えていると、動悸の波が引いて落ち着きました。その直後、先生が私の様子を見に来ました。心電図の記録をチェックして、「ん~? これは…」みたいな雰囲気になり、他の先生も呼びに行ったようです。しばらくすると、他の先生と一緒に戻ってきて、

「いや、今は普通なんだけど、さっきはこんな感じで…」
「あーホントだ。これはちょっと…」

みたいな会話を2~3人でしていました。

「心臓の先生にもちょっと相談しますね」

そう言って、先生は去っていきます。

緊急入院を告げられる その期間なんと…

どのくらい時間が経ったかは覚えていませんが、先生が戻ってきました。検査結果の説明をしてくれるということで、処置室の外で待っていた妻も呼ばれて一緒に聞きます。以下のような内容でした。

CTを撮った結果、肝臓のあたりに大きさ15㎝ほどの影がある。もしかすると、肝膿瘍(かんのうよう)といって肝臓が膿んでいるかもしれない。その膿が心臓に回って、動悸などの変調を引き起こした可能性が考えられる。膿を排出するために、お腹にドレーンを入れるかも。

先生「このまま緊急入院してもらいます」

マジか。肝臓が膿んでいるとか、ヤバそうな雰囲気。

私「そうですか…入院は1週間くらいですかね」
先生「いやいやいや! 1週間なんてとんでもない。1ヶ月は必要かと」

ちょっ、1ヶ月!?
えぇ~マジすか!
1ヶ月って…どんだけ重症なんですか。私よりも妻の方がショックを受けたようで、先生が離れた後にえんえん泣き出しました。

さて、1ヶ月も入院となると、急いで職場に連絡しないと。妻が職場に電話してくれました。

妻「おっお世話になってますぅぅぅ。ヒグッ ○○の妻ですが、そのですねぇぇぇ」

オイ! そんな泣きながら電話したら、「えっ死んだ!?」みたいに勘違いされるよ(笑)

さて、入院が必要と判明した私ですが、コロナの関係でPCR検査を受けます。おー、これが噂の新型コロナのPCR検査か。担当スタッフが、超ロング綿棒を私の鼻に突っ込んで

痛い痛い痛い痛い

想像していたよりも、めっちゃ鼻の奥まで突っ込まれてグリグリされました。ゴホッ、ゴホッ、ゴフゥェ! と咳き込みました。注射の50倍くらい痛かったです。

その後、妻が入院手続きをしている間、私は処置室で寝ていたのですが、この頃になると、あれだけ激しかった頭痛や目眩、吐き気がウソのように消えていました。体力を消耗した後のダルさはあるものの、病気のしんどさはない。そして、手続きを終えた妻が私のところに戻ってきたのは、すでに午前1時近かったと思います。

妻「手続き終わったよ」
私「あー、ありがとう。ホント悪かったね、こんな時間まで」
妻「良かったぁ~。普通に話せる感じに戻ったじゃん」

さっきまで泣いていた妻も、落ち着いたようです。

妻「てゆーか、今から車運転して帰らないといけないんだよねぇ。怖いなぁ」
私「この時間なら、他の車もいないから全然大丈夫っしょ」

私も余裕が戻り、二人で笑顔で話していました。

妻「コロナだから面会もダメだって。1ヶ月も会えないのかぁ」
私「(娘)ともそんなに会えないなんてなぁ」

妻と娘に1ヶ月も会えないなんて、当然ですが初めての経験です。その別れを惜しむかのように、私と妻は話し続けました。やがて看護師が来て、「PCR陰性でしたので大丈夫です。じゃあ病室に移動しますんで」と言われます。

一般病棟ではなくHCU病棟へ

私が運ばれたのは、一般病棟ではなくHCU病棟でした。ICUは知ってますが、HCUという単語は初めて知りました。

四人部屋だったので、スタッフの会話などから、他の患者三人の状況もおいおいわかりました。二人は糖尿病で人工透析中。あと一人は、手術を終えたばかりのようです。つまり、今すぐ生きるの死ぬのというレベルではないが、集中的な治療や観察が必要な患者の病棟がHCU、ということでしょうか。

ちなみにHCU、医療機器に影響を与える恐れがあるため、携帯電話の電源は切るように言われていました。ですので、うちの両親には妻から連絡するよう頼んでおきました。

ストレッチャーからベッドに移され、いろいろとセッティングされます。腕には点滴、指には酸素飽和度(サチュレーション)を測るモニター、鼻には酸素のチューブ、胸には心電図のコード。さらに血圧計も腕に巻かれます。

「ゆっくり休んでください。ちょっとでも苦しくなったら呼んでくださいね」

ベッド周りの仕切りのカーテンが引かれ、看護師が去っていきます。ベッドで横になれて、ようやく安堵しました。ここまで来れば、何かあっても死ぬことはないだろう。あとは、とにかく眠って体力を回復させないと…

ヤバい、全然眠れない。ものすごくシンドイ思いをして身体が疲弊しきっているはずなのに、まったく眠くならない。あまりの急展開に神経が興奮しているんだろうな、と。

さらに眠りを妨げたのが血圧計。1時間に一回、自動で血圧が測られます。そのたびに腕がぎゅっと強く締められるので、あれは眠れない(慣れたので翌日の夜からは眠れましたが)。

そして困ったのがオシッコ。歩行は危ないということで、トイレではなく、備え付けの尿瓶(しびん)にするよう言われましたが、これが意外に難しかった。身体にチューブやらコードやらがくっついているうえに、尿瓶は初めてなので、どういう体制で放尿するのがいいか要領が掴めなくて苦労しました。

こんな感じでしたから、私は結局眠れないまま、2時半、4時、5時、そして8時と、時計が動いていくのを眺めていました。

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